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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)1071号 判決 1981年8月31日

原告

株式会社湯谷製作所

被告

株式会社渡邊管理合理化研究所

外1名

主文

1  被告らは各自、原告に対し、金399万2,148円及びこれに対する昭和56年4月18日から支払ずみまで年5分の割合による金員の支払をせよ。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  この判決は、1に限り、仮に執行することができる。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

1 被告らは、各自原告に対し、金408万8,890円及びこれに対する昭和56年4月18日から支払ずみまで年5分の割合による金員の支払をせよ。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

2  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第2当事者の主張

1  請求の原因

1 原告は、昭和46年3月3日設定の登録により、次の実用新案権(以下、「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を取得した。

考案の名称 作業計画一覧表示盤

出願日 昭和41年8月30日

出願公告日 昭和45年6月29日

登録日 昭和46年3月3日

登録番号 第923277号

2  本件考案の実用新案登録出願の願書に添附した明細書(以下、「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の記載は次のとおりである。

「金属板表面に複数の横罫および縦罫を、互にほぼ直角に交叉させて固定の複数個の欄を形成し、最上段欄の左側第2欄目から右端欄に至る欄を日月欄、左側欄の各欄を種別欄とし、日月欄を移動可能な透明な合成樹脂系材料からなる日曜表示板を設け、上記種別欄の各種表面に裏側にマグネツトを固着した種別板を着脱自在に接着し、上記種別欄の各々の右側に位置する欄を事項欄とし、各事項欄の上端をやゝ正面前方に突出傾斜させて固定開口部を形成し、必要事項を記入した計画表を上記固定開口部の上端より挿入するとゝもに、上記各事項欄の必要正面に警告板などの表示板を適宜マグネツト接着可能として上記計画表とマグネツト表示板との組合せにより業務の進捗状況などを表示するようにした作業計画一覧表示盤」

3  本件考案は、次の構成要件からなるものである。

(1)  金属板表面に複数の横罫及び縦罫を、互にほぼ直角に交叉させて固定の複数個の欄を形成すること。

(2)  最上段欄の左側第2欄目から右端欄に至る欄を日月欄、左側端の各欄を種別欄とすること。

(3)  日月欄に移動可能な透明な合成樹脂系材料からなる日曜表示板を設けること。

(4)  種別欄の各欄表面に、裏面にマグネツトを固着した種別板を着脱自在に接着すること。

(5)  種別欄の各々の右側に位置する欄を事項欄とすること。

(6)  各事項欄の上端をやや正面前方に突出傾斜させて固定開口部を形成し、必要事項を記入した計画表を上記固定開口部の上端より挿入すること。

(7)  各事項欄の必要表面に警告板などの表示板を適宜マグネツト接着可能とすること。

(8)  計画表とマグネツト表示板との組合わせにより業務の進捗状況などを表示するようにすること。

(9)  作業計画一覧表示盤であること。

4  被告株式会社渡邊管理合理化研究所(以下、「被告会社」という。)は、昭和52年8月中旬から昭和54年3月頃までの間、別紙目録記載の管理板(商品名「ワタナベの愛車管理板」、以下「被告製品」という。)を販売した。

5  被告製品の構造は次のとおりである。

(1)' 金属板表面に複数の横罫及び縦罫を、互にほぼ直角に交叉させて固定の複数個の欄を形成すること。

(2)' 最上段欄の左側第2欄目から右端欄に至る欄を日付欄、左側端の各欄を月別欄とすること。

(3)' 日付欄に移動可能な透明な合成樹脂系材料からなる日曜表示板を設けること。

(4)' 月別欄の各欄表面に、裏面マグネツトを固着した月別板を着脱自在に接着すること。

(5)' 月別欄の各々の右側に位置する欄を事項欄とすること。

(6)' 各事項欄の上端をやや正面前方に突出傾斜させて固定開口部を形成し、必要事項を記入した計画表を右固定開口部の上端より挿入すること。

(7)' 各事項欄の必要正面に本日表示板を適宜マグネツト接着可能とすること。

(8)' 計画表とマグネツト表示板との組合せにより業務の進捗状況などを表示するようにすること。

(9)' 管理板であること。

6  被告製品の構造(1)'ないし(9)'は、いずれも本件考案の構成要件(1)ないし(9)をそれぞれ充足し、したがつて、被告製品は本件考案の技術的範囲に属する。

7(1)  被告会社は、本件実用新案権を侵害するものであることを知りながら又は過失により知らないで前記4のとおり被告製品を販売したものであり、被告渡邊は、被告会社の代表取締役としてその職務を行なうにつき、被告会社の販売する被告製品が本件実用新案権を侵害するものであることを知りながら又は過失によりこれを知らないで、被告会社をして前記のような侵害行為をなさしめたものである。

よつて、被告会社及び被告渡邊は、民法第709条、第719条1項の規定に基づき、原告に対し、連帯して、前記侵害行為によすて原告が蒙つた損害を賠償する義務がある。

(2)  原告は、被告らの前記侵害行為により、408万8,890円の損害を蒙つた。

すなわち、原告は、本件実用新案権に基づいて、被告製品とほぼ同一の構造及び用途を有する管理板(商品名「万能管理板」、以下「原告製品」という。)を製造し、これを少なくとも1台1万4,000円で卸売りしており、その原価は8,241円であるから、1台につき5,759円の利益を得ていることになる。しかるに、被告会社は、昭和52年8月中旬から昭和54年3月頃までの間に、被告会社製品を少なくとも710台販売したのであるから、原告は、右侵害行為により原告製品710台分の得べかりし利益を失つたものといえるから、結局、合計408万8,890円の損害を豪つたことになるのである。

8  よつて、原告は、被告らに対し、各自損害金として408万8,890円及びこれに対する不法行為の後である昭和56年4月18日から支払ずみまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2 請求の原因に対する認否

1 請求の原因1ないし3の事実は認める。

2 同4の事実中、被告会社が昭和53年中頃まで被告製品を販売していた事実は認めるが、その余の事実は否認する。

3 同5の事実は認める。

4 同6の事実は否認する。

本件実用新案権の登録出願の願書に添附した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載によれば、作業計画一覧表示盤の最上段欄の左側第2欄目から右端欄に至る欄は「日月欄」、左側端の各欄は「種別欄」とするとされているが、被告製品の最上段欄の左側第2欄目から右端欄に至る欄は「日付欄」であつて「日月欄」は存在せず、左欄端の各欄は「月別欄」であつて「種別欄」は存在しない。したがつて、被告製品は本件考案の構成要件を充足しない。

5 同7(1)の事実中、被告渡邊が被告会社の代表取締役であること、被告会社が被告製品を販売したことは認めるが、その余の事実は否認する。同(2)の事実中、原告が本件実用新案権に基づいて原告製品を製造し、これを販売していることは認めるが、その余の事実は否認する。

3 抗弁

被告会社が販売した被告製品は、すべて原告が製造したものであり、被告会社は、これを原告から直接、あるいは第3者から買受けて、販売していたものである。

4 抗弁に対する認否

否認する。

第3証拠関係

1  原告

1 甲第1ないし第7号証、第8号証(原告製品の写真)、第9号証(被告製品の写真)、第10号証(原告製品の本体に組み込まれているカードストツパーの写真)、第11号証(カードストツパー製造の為の総金型の写真)、第12号証(被告製品の本体に組み込まれているカードストツパーの写真)、第13号証(原告製品の上部日付欄の拡大写真)、第14号証(被告製品の上部日付欄の拡大写真)、第15号証(原告製品の裏面全体写真)、第16号証(被告製品の裏面全体写真)、第17号証(原告製品の表面種別板の写真)、第18号証(被告製品の表面種別板の写真)、第19号証(原告製品の裏面カバーをはずし、内部を写した写真)、第20号証(被告製品の裏面カバーをはずし、内部を写した写真)、第21号証(原告製品に貼用されているパテントナンバーシールの写真)、第22号証(被告製品に貼用されているパテントナンバーシールの写真)、第23号証、第24号証及び第25号証の各1・2、第26号証の1ないし6、第27号証、第28号証(種別板の写真)、第29号証の1ないし4、第30号証、第31号証の1ないし14、第32号証、検甲第1号証の1ないし3(被告製品の種別板)、第2号証(被告製品の警告板)、第3号証(被告製品の記入用白プレート)、第4号証(被告製品)

2  証人佐々木勝美、同湯谷佐知男の各証言

3  乙第1号証及び第3号証の各1及び2が被告主張のような写真であることは否認するが、同号各証の各3が被告主張のような写真であることは認める。但し、8年前頃の製品の写真である。第2号証の1・2のうち各上段及び下段のものが被告主張のようなコピーであることは認めるが、各中段のものが被告主張とようなコピーであることは否認する。第9号証の1ないし5、第10、第11号証、第16号証の1ないし9、第19号証、第20号証及び第21号証の各1・2、第23号証の各成立は不知。その余の乙号各証の成立(第17号証、第22号証、第24号証については原本の存在も)はいずれも認める。

2  被告ら

1 乙第1号証の1ないし3(いずれも原告が製造し、被告会社が購入して販売したのと同一の管理板の表面の写真)、2号証の1・2(右管理板の日付表示板のコピー)、第3号証の1ないし3(右管理板の裏面の写真)、第4号証及び第5号証の各1・2、第6ないし第8号証、第9号証の1ないし5、第10ないし第13号証、第14号証の1・2、第15号証の1ないし3、第16号証の1ないし9、第17ないし第19号証、第21号証及び第22号証の各1・2、第22号証ないし第25号証

2 被告会社代表者兼被告渡邊八郎本人尋問の結果

3  甲第1ないし第7号証、第24号証及び第25号証の第1・2、第26号証の1ないし6、第29号証の1ないし4、第32号証の成立(第29号証の1ないし4については原本の存在も)は認める。第8号証、第13号証、第15号証、第17号証、第21号証が原告主張の写真であることは認める。第9号証、第14号証、第16号証、第18号証が被告会社が販売した被告製品の写真であることは認めるが、被告会社が製造したものであるとの点は否認する。第10号証ないし第12号証、第19、第20号証、第22号証、第28号証が原告主張のような写真であることは不知。その余の乙号各証の成立は不知。検甲第1号証の1ないし3が被告製品の種別板であること、第2号証が被告製品の警告板であること、第3号証が被告製品の記入用白プレートであることは、いずれも不知。第4号証が被告会社が販売した被告製品であることは認めるが、被告会社が製造したものであるとの点は否認する。

理由

1  原告が本件実用新案権を取得したこと、本件実用新案権の実用新案登録請求の範囲の記載が原告主張のとおりであること、被告会社が昭和53年中頃まで被告製品を販売していたこと、被告製品の構造が別紙目録記載のとおりであること、被告渡邊が被告会社の代表取締役であること、原告が本件実用新案権に基づいて原告製品を製造し、販売していることは、いずれも当事者間に争いがない。

2  そこで、被告会社が販売した被告製品が本件考案の技術的範囲に属するか否かについて考察する。

前記当事者間に争いのない本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載と成立について争いのない甲第3号証(本件実用新案公報、別添実用新案公報と同じ。)によると、本件考案は

(1)  金属板表面に複数の横罫及び縦罫を、互にほぼ直角に交叉させて固定の複数個の欄を形成すること。

(2)  最上段欄の左側第2欄目から右端欄に至る欄を月日欄、左側端の各欄を種別欄とすること。

(3)  日月欄に移動可能な透明な合成樹脂系材料からなる日曜表示板を設けること。

(4)  種別欄の各欄表面に、裏面にマグネツトを固着した種別板を着脱自在に接着すること。

(5)  種別欄の各々の右側に位置する欄を事項欄とすること。

(6)  各事項欄の上端をやや正面前方に突出傾斜させて固定開口部を形成し、必要事項を記入した計画表を上記固定開口部の上端より挿入すること。

(7)  各事項欄の必要正面に警告板などの表示板を適宜マグネツト接着可能とすること。

(8)  計画表とマグネツト表示板との組合わせにより業務の進捗状況などを表示するようにすること。

(9)  作業計画一覧表示盤であること。

という構成からなるものであることが認められる。

3  一方、被告製品であることについて当事者間に争いのない検甲第4号証、被告製品を表示するものであることについて当事者間に争いのない別紙目録の記載、本件口頭弁論の全趣旨を総合すると、被告製品は

(1)' 金属板表面に複数の横罫及び縦罫を、互にほぼ直角に交叉させて固定の複数個の欄を形成すること。

(2)' 最上段欄の左側第2欄目から右端欄に至る欄を日付欄、左側端の各欄を月別欄とすること。

(3)' 日付欄に移動可能な透明な合成樹脂系材料からなる日曜表示板を設けること。

(4)' 月別欄の各欄表面に、裏面にマグネツトを固着した月別板を着脱自在に接着すること。

(5)' 月別欄の各々の右側に位置する欄を事項欄とすること。

(6)' 各事項欄の上端をやや正面前方に突出傾斜させて固定開口部を形成し、必要事項を記入した計画表を上記固定開口部の上端より挿入すること。

(7)' 各事項欄の必要表面に本日表示板を適宜マグネツト接着可能とすること。

(8)' 計画表とマグネツト表示板との組合わせにより業務の進捗状況などを表示するようにすること。

(9)' 管理板であること。

という構成からなるものであることが認められる。

4  次に、本件考案の構成要件と被告製品の構成とを対比する。

1 被告製品の構成(1)'、(6)'、(8)'は、本件考案の構成要件(1)、(6)、(8)といずれも同一であり、右各構成要件を充足している。

2(1) 本件考案の構成要件(2)、(3)と被告製品の構成(2)'、(3)'とを対比するに、前掲甲第3号証によれば、本件明細書の詳細な説明の欄には、実施例についての説明として、「上段の横罫欄(左の第2欄から右端欄まで)を日月欄Bとし、第1図において向つて左から右に、たとえば順次1~31日と表示する。日付欄Bを月別欄1~12のようにすることも、もちろんできる」(別添公報2欄17行ないし21行参照)との記載が存することが認められ、右記載からすれば、本件考案の構成要件(2)、(3)にいう「日月欄」とは、「日付欄」とすることも、また「月別欄」とすることもできる欄であることが認められ、被告製品の構成(2)'、(3)'の「日付欄」は右「日月欄」に該当するといえる。

(2) 本件考案の構成要件(2)、(4)、(5)と被告製品の構成(2)'、(4)'、(5)'とを対比するに、前掲甲第3号証によれば、本件明細書の詳細な説明の欄には、本件考案の構成要件(2)、(4)、(5)にいう「種別欄」に脱着自在に接着する同(4)ちいう「種別板」に記載する事項について、実施例として「従業員の氏名」を掲げた後に「以上は主に工場における工程表として利用する場合について述べたが、この考案は工場における他の業務計画に、また工場以外の作業場、事務所などにおける業務計画にも適用できることはもちろんで、この考案の適用範囲は広い。ただし、これらの場合には、種別板、計画表などへの記入事項を適宜変更する必要があろう。」(同4欄9行ないし15行参照)との記載が存することが認められる。右記載からすれば、本件考案の構成要件(2)、(4)、(5)にいう「種別欄」に着脱自在に接着する同(4)にいう「種別板」の記入事項は「作業計画一覧表示盤」の使用目的如何によつて適宜選択し得るものとして規定されていると解択し得るものであつて、被告製品の月別名を記入した「月別板」は本件考案の「種別板」に、被告製品の右「月別板」を着脱自在に接着する「月別欄」は本件考案の「種別欄」にそれぞれ該当するものといえる。

(3) 被告製品の構成(7)'にいう「本日表示板」及び同(9)'にいう「管理板」は、いずれも本件考案の構成要件(7)にいう「警告板などの表示板」及び「作業計画一覧表示盤」にそれぞれ該当するものといえる。

したがつて、被告製品の構成(2)'、(3)'、(4)'、(5)'、(7)'、(9)'は、いずれも本件考案の構成要件(2)、(3)、(4)、(5)、(7)、(9)を充足する。

3 被告からは、被告製品には「日月欄」も「種別欄」も存しないから、被告製品は本件考案の構成要件を充足せず、本件考案の技術的範囲に属しない旨主張するが、被告らの右主張は前記理由により採用し得ない。

よつて、被告製品は、本件考案の技術的範囲に属するものといえる。

5  ところで、被告らは、抗弁として、被告会社が販売した被品製品は、すべて原告が製造したものであり、被告会社は、これを原告から直接、あるいは第3者から買受けて、販売していたものであると主張するので、この点について判断する。

1 原告製品の写真であることについて争いのない甲第8号証、被告会社が販売した被告製品の写真であることについて争いのない甲第9号証、原告製品の裏面全体の写真であることについて争いのない甲第15号証、被告会社が販売した被告製品の裏面全体の写真であることについて争いのない甲第16号証、原告製品の表面種別板の写真であることについて争いのない甲第17号証、被告会社が販売した被告製品の写真であることについて争いのない甲第18号証、原告製品に貼付されているパテントナンバーシールの写真であることについて争いのない甲第21号証、証人湯谷佐知男の証言によりいずれも原告主張どおりの写真であると認められる甲第10ないし第12号証並びに被告会社が販売した被告製品であることについて争いのない検甲第4号証に被告製品を表示するものであることについて争いのない別紙目録の記載を総合すると、原告が製造販売している原告製品と被告製品とでは、ほぼ同一の構造を有しているものの

(1)  左側端の月別欄を5段に区切る突起が原告製品にはあるが被告製品にはない。

(2)  縦の寸法が被告製品の方が原告製品より5ミリ長い

(3)  カードストツパー全体の形状が異なる

(4)  裏面に入れてあるパツキングの材質及び裏面の補強金具と止め金の数が異なる

(5)  日付欄の1から31までの数字の印刷方法が、原告製品ではアルマイト染色加工であるのに対し被告製品ではスクリーン・プロセス印刷であり、また数字の形も異なるという相違点が存することが認められる。

2 右事実に前掲証人湯谷佐知男の証言を総合すれば、かえつて被告製品は原告が製造したものでないことが認められるのであつて、被告製品は、すべて原告が製造したものであるとする被告らの主張を認めるに足る証拠はない。

よつて、被告らの抗弁は理由がない。

6  原告の損害について

1 原告は、被告会社が昭和52年8月中旬から昭和54年3月頃までの間に被告製品を少なくとも710台販売した旨主張し、被告らは、被告製品を昭和53年中頃まで販売したことは争わないがその余の事実については争つているので、右の点について判断する。

(1)  成立について争いのない甲第6号証、第24号証及び第25号証の各1・2、第26号証の1ないし6、第29号証の1ないし4、第32号証、乙第5号証の1・2、第15号証の1ないし3、第22、第24号証、証人佐々木勝美の証言により真正に作成されたものと認められる甲第27号証、証人湯谷佐知男の証言により真正に作成されたものと認められる甲第31号証の1ないし13、弁論の全趣旨により真正に作成されたものと認められる甲第23号証、乙第23号証及び前記佐々木勝美、同湯谷佐知男の各証言、前記被告会社代表者兼被告渡邊八郎本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると次のような事実が認められる。

(1) 被告渡邊は、昭和46年12月頃から、原告が本件考案ち基づいて、製造していた原告製品を仕入れて、これを自動車の修理業者や販売業者を対象に販売していたが、昭和47年7月頃からは販売先をガソリンスタンドに絞つて種々の販売活動をするようになつて業積も伸長し、これに対応するため昭和50年9月に被告会社を設立して自ら代表取締役に就任し、被告会社は被告渡邊の個人としての営業をそのまま承継したこと。

(2) 被告会社は、大口取引先の日本石油の関係では「日石オイルチエツクパネル」、ゼネラル石油の関係では「愛車パツク車輛管理板」、大協石油の関係では「大協パネル」という商品名で、その他の関係では「ワタナベの愛車管理板」という商品名で原告製品の販売をしてきたこと。

(3) 被告渡邊及び被告会社の原告製品の販売実積は、昭和47年33台、同48年128台、同49年104台、同50年1,692台、同51年629台、同52年1月から同年5月末までの間260台であつたこと。

(4) 被告渡邊は、原告製品を販売し始めた当初は、原告製品の標準部品セツトをそのまま附属品として付けて販売していたが、販売先をガソリンスタンドに絞るようになつてからは、自ら開発した車両管理の為のステツカーを附属品として付けるようになり、被告会社を設立する頃からは、従来の附属品に換えて、右車両管理の為のステツカーの他、月別板、本日表示板、タイトル板などを附属品とし、原告製品を販売していたこと

(5) 被告会社が原告製品に付けていた附属品は、ピンク色、黄色、緑色各4枚づつの組合わせからなる月別板(1月~12月)12枚、本日表示板1枚、記入用白プレート1枚、車両管理用ステツカー1,500枚などであつたこと

(6) 右附属品のうち、月別板及び本日表示板については、原告において塩ビの板を購入したうえ印刷し易い様に一定の大きさに切断して被告会社に引渡し、被告会社の方で印刷をしたうえ再び原告に戻し、原告において印刷に従つてこれを切断して、その裏面にマグネツトを付けて、月別板及び本日表示板として完成させる、という手順をとつていたこと、

(7) そして、被告会社から原告に対して原告製品についての注文があると、原告は、前記各板を他の附属品と共に被告会社支給のビニール袋に入れ、これを原告製品と共にダンボール箱に入れて、被告会社の指示に従つて訴外銀座運搬社を通じて顧客に発送・出荷するという段取りで取引をしており、原告製品を直接被告会社(被告会社設立前には被告渡邊)に引渡すということはなく、したがつて、被告会社が常に在庫品を持つているという取引形態ではなかつたこと

(8) 原告と被告会社との取引は、昭和52年5月末日をもつて断絶したが、右断絶の間接的な原因は、原告が直接ガソリンスタンド向けに原告製品を販売しようとした点に存するものの、直接的な原因は、被告会社は原告との間にガソリンスタンド向けの原告製品の販売について独占的販売契約を締結した事実が存しないのに、被告会社が右契約が存すると強く主張した点にあること、そして、右期日以後、原告と被告会社との間では、原告製品についての取引は全くないこと

(9) 昭和52年5月末日当時、原告製品と競合するような管理板は販売されていなかつたこと

(10) 訴外フジプラスチツク工芸こと佐々木勝美は、被告会社から、昭和52年8月頃に、ピンク、黄、緑の3色の月別板と本日表示板合計4,700枚の切断と白の塩ビ板(40ミリ×80ミリ×1ミリ)360枚の切断を依頼され、また、昭和53年4月頃には、いずれも印刷がなされていないピンク色及び黄色の塩ビ板(いずれも大きさは350ミリ×450ミリ×1ミリ)各35枚、白の塩ビ板(350ミリ×450ミリ×1ミリ)8枚、白の塩ビ板(230ミリ×360ミリ×1ミリ)10枚の切断を依頼され、いずれもそのころ、右各作業をなして被告会社に納品していること

(11) 前記(5)の事実に照らすと、前記佐々木勝美が昭和52年8月頃に被告会社に納品した前記(10)の品物は、被告製品360台分の月別板、本日表示板、記入用白プレートにあたること、また、昭和53年4月頃納品した350ミリ×450ミリ×1ミリのピンク色及び黄色の塩ビ板からは、それぞれ40枚の月別板用の板が取れることから、右塩ビ板各35枚からは、それぞれ1,400枚の月別板用の板が取れ、前記(5)の事実に照らすと、右は、被告製品350台分のピンク色及び黄色の月別板用の板にあたることが認められ、結局、被告会社は、原告との取引断絶後に、被告製品710台分の附属品に相当する附属品を作つたものと推認し得ること

(12) 被告会社は、訴外和信興産株式会社から、昭和52年5月27日に「愛車管理板ダンボール」303個と3,000枚余のビニール袋を購入し、同年7月14日その支払をなしていること、また、同年9月5日には、「日石オイルチエツクパネル」用のダンボール106個を購入し、同年11月5日その支払をなしていること

(13) 被告会社は、原告との取引断絶後である昭和52年7月頃から昭和54年初め頃までの間、新聞広告を掲載したり、依頼に応じてカタログを送付するなどして被告製品販売の為の宣伝活動をなしており、昭和53年中頃以降も被告製品を販売していたものと推認し得ること

以上のような事実が認められ、前掲証拠中右認定に反する部分は直ちに採用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(2) 一方、前記(8)の事実に被告会社代表者兼被告本人渡邊八郎の尋問の結果により真正に作成されたものと認められる乙第16号証の1ないし9によると、被告会社は、原告との取引断絶後である昭和52年7月頃に3台、同年8月頃に5台、同年10月頃に1台、同年12月頃に3台、昭和53年2月頃に2台、同年3月頃に4台、以上合計18台の原告製品を原告以外の者から購入したことが認められ、右認定を左右するに足る証緊はない。

(3) そして、前記(1)(3)、(5)ないし(7)、(10)ないし(13)及び(2)の事実に弁論の全趣旨を総合すれば、被告会社は、昭和52年8月頃から昭和54年初め頃までの間に、少なくとも692台の被告製品を販売したものと認めることができる。

2 次に、被告会社は、前記侵害行為について過失があつたものと推定され(実用新案法第30条の規定によつて準用される特許法第103条)、右推定を覆えすに足る事情を認めるに足る証拠はない。

3 そこで、原告の蒙つた損害の額であるが、前記5 1で認定したとおり、原告製品と被告製品とでは細部について多少の相違点は存するもののほぼ同一の構造を有しているものであること及び前記6 1(1)の(1)ないし(4)、(8)、(9)、(13)、(2)の事実からすれば、原告主張のように、被告会社が被告製品を販売したことにより、原告は、右販売台数に応じた得べかりし利益を失つたものとみるのが相当である。

よつて、右得べかりし利益の額について検討するに、前掲甲第31号証の1ないし13及び前掲証人湯谷佐知男の証言並びに同証言により真正に作成されたものと認められる甲第30号証によれば、原告製品を製造、販売するに要する製造原価及び販売管理費は、1台あたり合計8,231円と認められ、一方、原告は、従来、少なくとも1台1万4,000円で卸売りをなしていたものと認められることから、1台あたりの利益は5,769円であり、被告会社の前記侵害行為によつて失われた原告の得べかりし利益、すなわち損害は、5,769円に前記の692台を乗じて得た399万2,148円ということになる。

4 被告渡邊が被告会社の代表取締役であることは前記1記載のとおり当事者間に争いがない。そして、被告渡邊本人の尋問の結果によれば、同被告は、原告と取引を始めた当初から、原告が本件実用新案権を有すること、そしてその実施品として原告製品を製造し、販売していることを知つていたことが認められ、前記1(1)の各事実に照らすと、被告渡邊は、被告会社に前記侵害行為をなさしめたものであるから、少なくとも過失により原告の本件実用新案権を侵害したものとして、原告に対し、被告会社といわゆる不真性連帯の関係で被告会社の前記侵害行為によつて生じた損害を賠償すべき責任を負担するものというべきである。

7 よつて、原告の被告らに対する本訴請求は、前記損害金399万2,148円及びこれに対する不法行為の後である原告主張の昭和56年4月18日から支払ずみまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条、第92条但書、第93条1項本文を、仮執行の宣言につき同法第196条1項の各規定を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(牧野利秋 野崎悦宏 川島貴志郎)

<以下省略>

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